気がつくと、私は実家を訪ねていた。 私の突然の訪問に驚きながらも、母は優しく迎え入れてくれたわ。 母の入れてくれた温かい紅茶を一口含むと、今まで張り詰めていたものが決壊したかのように、私は感情に任せて一気に話し出した。
でも、ダニエルの事は言わなかったわ。 言えなかった。 私の口から出る言葉は、仕事に関する失敗ばかり。 あまりにも感情的になり過ぎて、内容は支離滅裂だったわ。 でも、母は静かに、じっと聞いてくれていた。 私が一通り話し終えると、母は優しい笑みで私を励ましてくれた。
「疲れているのね、マリー・スー。 可哀想に。 仕事の事はまた頑張ればいいのよ。 貴女のお父さんは見栄っ張りだから知らないでしょうけれども、 あの人だって若い頃は何度も失敗していたわ。 クビになりかけた事もあるくらいよ。」
「あのお父さんが?」
初耳だったわ。 私の知る父は、現役時代は常にビジネス界のトップを走っているような、優秀なビジネスマンだった。 その父に、そんな時代があっただなんて。
「ふふ、貴女には内緒にしていたから。 でも、あの人はめげずに頑張って来たわ。 何故、頑張れたのだと思う?
マリー・スー、考えてみて。 貴女にとって一番大切なものは何かしら?」
母に問われても私は答えられなかった。
「いい?マリー・スー。 人は支えなくしては、生きてはいけないわ。 人によっては夢であったり、仕事であったり、恋人であったり。 さあ、ようく考えて御覧なさい?」
それでも私が俯いて黙っていると、母は再び語りかけて来た。
「貴女のお父さんの支えは、家族。 それは私もよ。 家族を守りたいから頑張れるの。 そして、その家族に支えてもらえるからこそ、安心して頑張れるのよ。
ねぇ、マリー・スー。 貴女にも素晴らしい家族があるじゃないの。 でも、家族って何なのかしらと、貴女は考えた事があるかしら? 例え、血が繋がっていても解りあえない事も沢山あるわ。 ましてや夫婦なんて、とても大変よ。 別々の家族の一員だった者同士が、 新たな家族を作り上げようとしているんですもの。 私とお父さんだって、こんなに長年一緒に居ても、 お互いに解らない事がまだまだ沢山あるわ。 その度に、何度もぶつかり合って。 時には妥協し合い、時には許し合い。 でも、お互いを信じているからこそ、とことん話し合えたわ。 こうして私とお父さんは家族を守って来たの。 貴女と私だって、最初の頃は何度もぶつかり合っていたのを覚えてる?
マリー・スー、人生は選択の連続よ。 貴女にとって、何が一番重要なのか、何が一番大切なのか。 もし、分からなくなってしまった時は、思い出してみて。 そして、その時に貴女がどんな道を選択したとしても。 私もお父さんも、常に貴女の幸せを願っている事だけは忘れないで。」
そこまで言い終えると母は、もう1つだけ内緒話をと、一言付け加えたわ。 貴女のお父さん、若い頃は結構やんちゃだったのよ、と。 母の話を聞きながら、私は敵わないと感じたわ。 きっと母には全部お見通しだったのね。
「今日はもう遅いから、泊まってってらっしゃい。」
母は終止、優しい笑顔だったわ。 |