バイトから帰ると、珍しく父さんが2階から降りていた。 一緒にどうだ、とダーツに誘われた。 時間が空いていると、よく父さんとダーツをしていたっけ。 勝手に俺が父さんと顔を合わせづらく感じていたけれど、いつまでも避けている訳にもいかない。 いいね、と俺が答えると、よし!と父さんは笑った。
ダーツをしながら父さんと色んな話をした。 学校の事、最近あった事。 ふいに俺は父さんに訊いた。 大丈夫?って。 俺が何について訊いたのかすぐ分かったみたいで、ボードに狙いを定めながら父さんは答えた。
「俺はな、勇気がなかったんだよ。」
トン、とダーツが中央を大きくそれて、弾かれた。 父さんがしまった!という表情をした。
「これで父さんの負けが決定だね。」
いやいや、勝負はこれからだ、と言いながら、父さんは俺と交代した。 俺がポジションにつくと、父さんは話を続けた。
「今日な、仕事の依頼を受けたんだ。 肖像画だ。 家族の。 大切な友人の家族なんだ。 とても幸福そうな笑顔だったよ。」
そうなんだ、と答えながら俺はボードに向けてダーツを投げた。
「彼女の笑顔の為なら、俺は何でもしようと思う。」
俺の投げたダーツはボードの真ん中を射抜いた。 む、と顔をしかめる父さんに思い切って俺は尋ねた。
「その人のこと、好きなの?」
ああ、好きだよと、父さんは答えた。
「・・・母さんよりも?」
口をついて出てしまった。 俺の口からこういう質問が出るのは、父さんには意外だったのか、一瞬驚いた顔をした。 子供じみた質問だって分かってる。 でも、訊かずにはいられなかったんだ。
「ダーリーン、母さんと同じくらい、大切に想っているよ。」 父さんの真剣な表情を見て、俺は何だか申し訳ない気持ちになった。 ごめん、って謝ると、父さんの方からも済まないと謝られた。
「今日はもうゲームを終わりにしようか。」
いそいそとダーツを片付ける父さんの背中越しに、俺は話を続けた。
「父さん、俺さ・・・。 反対しないよ。 応援するから。」
少し淋しいけれど、でも、父さんははっきりと答えてくれたから。 今度こそ、俺は心から父さんの事を応援するよ。 だけれど、ありがとうと答えた父さんの笑顔は、どこか、ほんのちょっぴり悲しげだった。 |