「ドンは!? ドンは今、ここに居るの!?」
家に帰ろうと、丁度ゴス家の門をくぐりぬけた時だったわ。 詰め寄って来るニーナに、さあどうだったかしら、と私は答えた。
「しらばっくれないで、ディナ! 聞いたわよ、わたし! 今日は結婚式だったんでしょ!?あの女の! 何で、何で黙ってたのよ! 相手は誰なの!?」
今にも飛び込もうとするニーナを私は制止した。
「ゴス家の方達ならもう、皆さんお休み中よ。 言ったでしょう、ニーナ。 捨てられるのがオチだって。」
「嘘よ、嘘だわ! そこをどいて、ディナ! 彼が、彼がここに居るはずがないわ! 彼が愛しているのはわたしだもの!! 彼があの女を選ぶはずがないわ!」
馬鹿な女。
「その様子だと、真っ先にここに来たようね。 確かめなくても分かっているでしょう。 愛ですって? 貴女だって、本当は始めから気付いていた事でしょう?」
「な、何よ! 何が言いたいのよ、ディナ! いいから、そこをどいて!! ドンがここに居るはずがない! わたしは彼を信じているの!
ドンが、ドンが愛しているのはわたし! このニーナ・カリエンテ!! 彼がそう言っていたもの・・・! わたしは、わたしは彼の愛を信じているわ! わたし達は愛し合っているのよ・・・!!」
私の言葉に狼狽しながらも、彼女は愛という言葉を何度も口にした。 まるですがるかように。
”彼を信じている” ”彼の愛を信じている” ”わたし達は愛し合っている”
愚かだわ。
「それなら、言わせて貰うけれど。」
私は冷ややかに言った。
「ニーナ、貴女は何故、そんなに焦っているのかしら? 貴女は真っ先にここにやって来るべきではなかったわ。 何を聞いたとしてもよ。 今頃、貴女は平然としてあの男の家を訪ねていたはずでしょう? あの男を、貴女の言う愛とやらを・・・、」
私は一度言葉を区切り、そして続けた。
「本当に信じていたと言うのならね。」
彼女は言葉を失くし、そして、懇願とも取れない表情で私を見た。 私は構わず続けたわ。
「あの男の家に行ってみたら? 信じているのでしょう? 愛し合っているのでしょう?」
ディナには、ディナには分からないのよ!そう言うと、彼女はきびすを返し、あの男の家に急いで向かって行ったわ。
あの家にはもう誰も居ない。 ニーナが求めているあの男は、間違いなくここに居る。 彼女だって分かっている癖に。 どこまで、どこまで愚かなのかしら。 |