鶏を脱いで、早速俺は宇宙服に着替えた。
『未来家族キム』の終了以来だ。
さあ、これでこの
惑星のペットショップのキャッチコピーを全面的に押し出せたはずだ!
だが、問題があった。
深刻なんだ。
ん?
宇宙服にした事で、動きにくい事じゃないかって?
いや、それは別に大した事じゃないんだ。
体を更に鍛えればいい。
じゃあ、ヘルメットで声がこごもってしまう事かって?
惜しい!
だが、それも声を張り上げればいいだけの話なんだ。
分かるかな、かなり致命的な事なんだ。
そう、それ!
正解!
『 呼 吸 が 出 来 な い 』
まさにこれなんだ!
このドラマ用スーツは、エアーポンプに接続するチューブというものが存在しない。
例え存在しても、エアーポンプ自体がフェイクなんだ。
リアリティを出す為に、エアーホールも勿論開いていない。
息をする為にはどうすればいいか?
スーツとヘルメットの間に、わずかな隙間があるんだ。
そこが唯一の空気の出入り口。
あっという間に消費しないよう、わずかな空気口でも平気なよう、動きと呼吸は極力静かにゆっくりと行うのが鉄則なんだ。
ドラマでは、それが功を成して、本物の宇宙空間にいるようだ!と絶賛されたものだよ。
だけど、ペットショップでそんなスローモーション、困った事に仕事にならない。
酸欠状態の中、あれこれと店内を動き回ったり、大声を張り上げ続けていたら・・・。
そうだな、死ぬかもしれない。
いつかね。
皮肉な物だよ。
俺が考えあぐんでいると、アレグラはずばりと言って来た。
「ヘルメットを取れば解決します。」
!!
なんて冷静に核心を突いてくれるんだ、アレグラ!
だが、残念だ。
それでは宇宙で呼吸は出来ない。
「ここは地球です。」
む、確かにその通りだ。
だが、中途半端な格好では、ショップのコンセプトがまたあやふやになってしまう。
やるからには、徹底的に追求するべきじゃないのだろうか?
スーツは着ているのに、ヘルメットはしないなんて、アリとは思えない。
俺は悩んだ。
「オーナーはロバート・キムです。」
彼女は唐突に語り出した。
「『未来家族キム』の舞台は宇宙コロニー。
ドラマの平均視聴率、86.3%
最高視聴率、98.2%
本日までのDVDレンタル及び販売数、31,061,999本。
以上の数字により、オーナーがそこに居るだけで、
目的を達するには十分効果的である事が安易に推測できます。
ドラマを知るシム達は、オーナーの姿を見止めた瞬間、
必然的に宇宙のイメージを抱きます。
それはむしろ、より具体的に広がるメリットを含みます。
顔が見えないのでは、誰だか分かりません。
得られるメリットを見逃す行為です。
以上の理由により、ヘルメットは必要ではありません。」
なるほど、言われてみればそうだ。
俺ですら把握した事がなかったレンタル数云々の数字。
そこまで並べられて少し驚いたけれど、おかげで納得したよ。
確かに、ヘルメットは止めた方が良さそうだ。
いや、要らないな。
「しかしアレグラ。
君って、ロボットみたいだね。」
彼女の冷静で淡々とした口調に、答えを弾き出す時のコンピューターを連想した。
アレグラは無反応だったが。
聞こえなかったようだ。
「ところで、オーナー。
惑星のペットパークのアルバイトは見つかりましたか?」
俺はヘルメットを取って、ソファーに置いた。
「いや、まだ募集広告すら出していない。
今週中には出す予定だと、シンシアは言っていたよ。」
「ルームメイトを紹介しても?」
宇宙のアンテナを頭に付けたスーパー・アンドロイド-アレグラが微笑んだ。