今日は
ジャドール・ベーカリーの休業日。
従業員のラッシ・テーラーと約束あると言って、ギルは出掛けてしまったわ。
業務上での話があるとかで。
例の事を詳しく聞いて、改めて注意するつもりだったのに。
いえ、仕事に関する約束事なら仕方がありません。
許しましょう。
しかし、まさか問題のシムに会えるとは。
ええ、問題のシムとは、ローラ・フィリピンの事です。
ブルーウォーター村マイクロモールに食材を買いに行った時の事よ。
彼女も来ていたわ。
「ローラ・フィリピンさん?
私、ギルバートの母です。」
「あら、デニスさん!
こんにちは。
ご機嫌はいかが?」
私が声を掛けると、ローラ・フィリピンは食材選びを中断して、挨拶を返してきたわ。
「ええ、とってもいいわ。
おかげさまで。」
「今日はショップ、お休みなんですよね。
私、
ジャドール・ベーカリーのファンなんですよ。
もう、ジャドールジャンキーね。
息子さんの焼き立てのあのパンが、今日は食べられないなんて
とっても苦しいわ!」
「それはどうも。
週に一度は息子も休まなくては倒れてしまいますので。
ギルはロボットじゃありませんから。
明日は営業しています。」
「・・・そうね。
教えてくれてありがとう。」
そう言うと、ローラ・フィリピンは、食材選びの作業に戻ろうとした。
「ローラさん。
ちょっとよろしいかしら?」
彼女は再び手を止めて振り返ったわ。
「何かしら?」
「一昨日の晩、息子とディナーに行かれましたわよね?」
「ええ、
ル・マグニフィーク!国際レストランに。
息子さんのおかげでとても楽しいディナーを過ごせました。
それが何か?」
それが何か?
まあ、白々しい。
コホン、と私は一度咳をしてから質問を続けたわ。
「私どもの家に泊まられたでしょう?」
「ええ、泊まったわ。」
あっさりとローラ・フィリピンは答えたわ。
隠そうともせず、悪びれもせず。
なんて図々しい!
夜更けに男性の家に泊まりに行くなど、女性として、なんてはしたない事なのでしょう!
彼女の頭の中には、そういう行為であるという認識は、欠片も無いようですけれど。
ギルもギルです。
いくら泥酔していたとは言え、お付き合いもしていない女性を家に泊まらせるだなんて!
しかし、一番の問題はそこではありません。
私は気を取り直したわ。
最も肝心な事を私はまだ聞いていない。
「それで・・・。
息子は、自分はソファーで寝たと申してましたが・・・?」
彼女はまるで数式を解いた時のような表情をしたわ。
質問の意図をやっと理解したようね。
「ねぇ、デニスさん?
息子さんはとっても素敵な男性よ。
もう立派な大人のね。」
ええ、母親である私が一番よく知っています。
貴女に教えて貰わなくとも。
それに肝心な質問の答えになっていないわ。
「息子に伝えておきます。
お客様が誉めていたと。」
そのまま目を逸らさずに真っ直ぐ、彼女の目を見返したわ。
微笑を浮かべていたローラ・フィリピンは、軽く息を吐いてから、再度微笑に戻って答えた。
「ええ、そうよ、デニスさん。
私はベッド。
彼はソファー。
息子さんの言う通りよ。
それが全て。」
彼女の答えを聞いて、私は安堵したわ。
やっぱり。
ギルがそこまで軽はずみな事をするなど、ある筈がありません。
泊まらせたのは、今となっては仕方がありません。
優しい子ですもの。
むしろ、誤解されかねないような原因を作ったこの女性の方こそ、だらしないわ。
「そう、ありがとう。
これからも
ジャドール・ベーカリーをご贔屓に。」
「ええ、そうさせて貰うわ。」
そう言うと、彼女は買い物籠を持って、レジの方へと向かって行った。